『Die Fälscher』(The Counterfeiters、2007年、オーストリア、1/26/08)
第23回サンタバーバラ国際映画祭での私にとっての4番目の作品です。
第2次世界大戦中のナチスドイツ。ユダヤ人の強制収容所内で実際に行われていた敵国の紙幣を大量に偽造するという作戦を描いた作品です。贋作師、印刷工など、偽札作りに役に立つと思われるユダヤ人達が隔離され、それなりにましな待遇を与えられてナチスの作戦のために働きます。しかし、ナチスに加担することへの抵抗もあります。仲間を裏切って生き延びるのか、それとも…。終始緊迫感があって、なかなかいい作品でした。(★★★★☆)
(あらすじ)
Salomon Sorowitschは贋作師。パスポートを始め、様々なものを偽造する彼の腕は、世界でも有数のものでした。そんな彼は第2次世界大戦中のユダヤ人収容所に送られますが、美術の才能を売り込んで、壁画を描くという楽な仕事を手に入れ、さらには特別な食事までもらうことに成功します。ところが、ある日、突然の移送命令が…。行き先は、別の収容所の中に作られた偽造紙幣の印刷工場。そこには各地から集められた印刷工などが、Herzogというナチス将校の元で敵国の紙幣を偽造するという作戦のために働かされいたのです。他のユダヤ人から隔離されたセクションで暮らす彼らは、その技術故に大切に扱われ、ベッドも洋服も食べ物も特別なものが支給されていました。手始めにイギリスのポンド紙幣の偽造を命じられた彼らはSorowitschの指示のもと、試行錯誤の末に、イギリスの銀行でさえ区別ができないほどの精巧な偽造紙幣を作り出します。
次の狙いはアメリカのドル紙幣。しかし、ナチスに加担することに耐えられない印刷工Burgerは、Sorowitschが作った印刷用の原版をいくつもダメにし、わざと偽ドル作りの作業を遅らせるのでした。そのことに気がついたHerzogは、期限以内に成功しなければ5人の仲間を処刑すると宣言し、処刑の対象になった男達はBurgerを裏切れば助かると考え、仲間の中でも軋轢が生じます。また、自分の妻子がすでに死んでいることを知って絶望する仲間Loszekや、結核にかかり治療の施しようがない仲間Kolyaなど、待遇がいいとは言え、収容所内での暮らしであることには変わりありません。さらに、終戦を迎えたら、自分たちは処刑される運命なのです。ある日SorowitschはHerzogの家に招かれ、「なぜドル紙幣の完成が遅いのか」と探りを入れられます。しかし、上からの圧力に焦っているHerzogは、Sorowitschに取引をもちかけ、SorowitschはKolyaのための結核治療薬を要求するのでした。
そしてドル紙幣完成の期限の日、「Burgerが…」と言い出しかけたその時に、Sorowitschが完成させたドル紙幣をHerzogに渡します。それを複雑な思いで見つめるBurger。ドル紙幣完成を祝うパーティーが行われている時、裏ではSorowitschが偽造したスイスのパスポートをHerzogに渡します。Herzogはナチスの敗戦を予感し、国外に逃れるために自分と家族の偽造パスポートを作らせていたのです。Sorowitschはそれと引き換えにKolyaの薬を手に入れますが、Herzogの命令でKolyaは銃殺されてしまいます。許せない気持ちでHerzogを睨みつけるSorowitsch。
終戦が間近に迫り、ナチスは偽造紙幣の原版や印刷機を全て移動することを決めます。命令で工場を全て片付け、「次は自分たちが処分されるのか…」と怯えるユダヤ人達。ある夜、工場に戻ったSorowitschは、壁の間に隠したドル紙幣を取りに戻ったHerzogを見つけます。これまでの怒りを込め、エッチングに使う小さいナイフでHerzogに襲いかかるSorowitsch。かつて威張り散らしていた勢いもなく泣きながら「殺さないでくれ」と頼むHerzog。Sorowitschは「殺す価値もない…」と彼を逃してやります。翌朝、隔離されている板塀をぶち破って入って来た男達は、同じ収容所にいた「普通の」ユダヤ人達でした。身ぎれいにし、栄養状態もいい偽造工場のユダヤ人達をナチスだと勘違いする彼らに、腕の番号の入れ墨を見せる男達。彼らはようやく解放されるのでした。
そして、モンテ・カルロ公国。一人の紳士がカジノのホテルに大金を持って現れます。その男はSorowitschで、Herzogが残して行ったドルの偽造紙幣を持っていたのです。カジノで知り合った美女と一夜を過ごしたSorowitschは、カジノで盲滅法なギャンプルをして全ての偽造紙幣を使い果たします。その姿は、自分の過去と決別するための儀式のようにも見えました。夜の海辺、前夜知り合った美しい女性と静かにダンスをするSorowitsch。その足下には静かに波が寄せているのでした。